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1人の医師の逮捕が中国政府を動かした?

中国で昨年大ヒットした映画があります。映画の名前は「我不是薬神」(ニセ薬じゃない!)。9000万人の観客動員を記録した社会派映画で、中国で実際に起ったジェネリック薬品の密輸入事件がモデルになっています。2014年、白血病だった男性が中国国内では治療薬が高額で購入出来なかったため、違法であることを知りながらインドから格安のジェネリック薬品を密輸。結果的に多くの白血病患者を救った事件です。

 

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《中国で大ヒットしたジェネリック薬品の密輸事件をモデルにした映画》


この事件によって、中国の医療制度が見直されるきっかけとなり、逮捕された男性にも減刑を求める嘆願書が中国全土から寄せられるなど、中国社会に大きな影響を与える事件となりました。


そんな中国でこのほど、この映画同様、海外製の安価なジェネリック薬品を密輸していたとして逮捕された男性医師の第二審裁判が開かれ、一審判決で下った懲役4年〜7年の刑期が懲役2年へと減刑される判決が下りました。

 

医師だった郭橋という男性は、2015年7月から2016年11月にかけ、シンガポール医療機関から児童用の肺炎のワクチン1.3万本を密輸していたとして当局に逮捕されました。実は同時期の2014年2月から2017年3月、中国政府は安全性の問題などから、2歳以下の乳幼児用の肺炎ワクチンを輸入禁止としていたのです。

 

 

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《逮捕された今回の医師》


郭橋氏は逮捕後、自身がワクチンを密輸した動機について「医師として、法律よりも児童の健康が大切だと考えワクチンを密輸した」と供述。このためネットユーザーなどから、「違法行為をしたとは言え、人命を救った立派な医師でもある」といった意見が数多く寄せられました。こうした世論の影響もあり、今回の第2審裁判では減刑の判決が下ったのではないかと考えられています。


さらにこの事件は、中国政府をも大きく動かすことになりました。今年8月、中国政府の最高立法機関・全国人民代表大会常務委員会はこの事件の影響で、これまで中国で批准されていない医薬品をすべて「違法な偽薬」としていた法律を見直し、国内で批准されていなくても、海外で批准されている薬は偽物と定義しないこととなったのです。


とは言え、中国は日本のような高度な医療制度が整っているわけではなく、今も多くの人々が高額な医療費に苦しんでいます。皮肉にも薬の密輸事件が医療制度改革を推し進めることとなった中国。更なる改革が進み、1人でも多くの人々が助かることを願うばかりです。